郵便配達は二度ベルを鳴らす

ルキノ・ヴィスコンティ監督「郵便配達は二度ベルを鳴らす」 1942年

昨年がヴィスコンティ生誕110年没後40年だった関係で彼の映画が何本もデジタルリマスター化され、続々と上映されました。今年1月から柏のキネ旬映画館にも来ています。親の入院騒ぎなどもあって全部観るのは難しそうだと思っていましたが、本作は以前からとても気になっていたこともあって、親の退院を見届けて少々無理して行ってきました。

無理を押して行って良かった!あらすじだけを追うと三文小説と変わらないような話をこれだけ文学的に美しく描けるのは才能のなせるわざ、と感じました。特に今まで1981年にアメリカで映画化されたジャック・ニコルソンジェシカ・ラング主演版をヴィデオでちょっとだけ観てあまりの激しい性描写に正視出来ず最初の20分ちょっとで挫折していただけに、ストーリーそのものが際どいエロ話なのだと長らく思い込んでいたのですが(無理して行ったというのはそういう意味もありました。正視出来なかったら途中で映画館を出ようと思っていました)、本作は全然違いました。

ヴィスコンティの最初期の長編で、彼がどのような思いを込めてこの映画を製作したのかはわかりませんが、必ずしも情欲に溺れきらない姿を映す所に社会の底辺を生きる人達への温かいまなざしを感じました。

特に印象深かったのは、レストラン経営者の旦那のことを最初の方のシーンで「あなたは善人だ」と技師が言うシーン、旦那がオペラコンテストに出演するシーン(歌の才能が優れていることを描いていることで、その妻が旦那を嫌っているのがちょっと客観化されていると思いました)、技師が彼女に愛想をつかして踊り子にアイスクリームを買ってあげて誘惑するシーンが入っていること(正視出来なくて確認していませんが、オペラコンテストともどもアメリカ版にはないシーンかも?と思いました)、でしょうか。妻の情欲に振り回される技師の不幸、という(男性贔屓な)図式にはヴィスコンティらしさを感じましたが、その後の作品全般によく感じる強烈な皮肉は本作ではあまり感じられず、素直に撮りたいものを描いたように思いました。

なお、旦那は比較的晩年のオイストラフ、技師は石原莞爾によく似ているような気がしましたが、この相似は意図したものなのかどうかはわかりません(ヴィスコンティ共産党員であったことも考えると前者は意図した可能性あるかもしれないけれど、製作された頃はオイストラフもまだ若かったし理性的に考えれば関係ない気がします)。