読書感想文 「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 (アレン ネルソン

 おすすめ度 ★★★★★

 子供向けの本ですが、子供だけに読ませておくのはあまりにもったいない。多くの人に広く、とりわけ、選挙権を持つことになった高校生に読んでもらいたい本です。著者のアレン ネルソンはニューヨーク生まれ、18才で海兵隊に入隊し、沖縄のキャンプ・ハンセンに勤務後、66年から約1年、ベトナム戦争に従軍しました。帰還後は平和活動に従事し、2009年多発性骨髄炎により61才で亡くなるまで、アメリカや日本の各地で戦争の実像を伝え続けました。

 ベトナムから帰還後、彼は毎晩悪夢にうなされます。当時はその名称は全く一般的ではありませんでしたが、重い心的外傷後ストレス障害PTSD)の症状でした。正常な毎日が送れなくなった彼はホームレスになり、知り合いに食べ物をもらったり、万引きしたりしながら、勝手に忍び込んだ無人のビルで暮らしていました。勲章を4つもらった優秀な兵士のなれの果てでした。

 ある日彼は通りで、高校時代の同級生ダイアン ウイルソンに偶然会います。小学校の教師になっていた彼女は、講演料も支払うので、学校に来て子供たちにベトナムでの経験を語ってもらえないかと言います。一度は断ったものの、次に彼女が持参した子供たちの絵や作文に、久しぶりに心が和んだネルソンは結局了承し、学校を訪ねていきます。

 相手が子供ということもあって、戦争の真の残酷さは避けて、仲間の死、ジャングルの虫、蒸し暑さ等、表層的なことを語って講演を終え、最後に子供たちからの質問を受けていたとき、最前列にすわっていたの女の子が手を挙げ、ネルソンを真っ直ぐ見つめてこう訊きました。

「ミスターネルソン、あなたは人を殺しましたか?」

 訊かれた途端、彼の脳裏に、初めて殺した男の顔、服装、その男の耳を記念に切り取ったことなどが甦り、彼はしばらく硬直してしまいます。初めの人殺しを皮切りに、民間人の女性、子供を含め、彼は数えきれないほどベトナムの人を殺していました。長い沈黙の後、「Yes」と答えたまま目を閉じてじっとしているネルソンを、少女は、「かわいそうなネルソンさん」と言いながら抱きしめます。彼はこのときから生き直す決意をします。

 沖縄での訓練の様子も描かれています。教官が叫びます。

「おまえたちのしたいことはなんだ?」

「殺す!」

「聞こえんぞ!おまえたちのしたいことはなんだ?」

「殺す!」

「聞こえん!」

「殺す!殺す!殺す!」

「スペルを言え!」

「K!I!L!L! K!I!L!L! 殺す!殺す!」

 また、当時アメリカ占領下にあった沖縄での海兵隊の振る舞いも描かれています。アジアの民族は劣等だと叩き込まれていた彼らは、沖縄の人々を自分たちと同じ人間だとは考えていませんでした。例えば街で酒を飲み、タクシーでキャンプ・ハンセンに戻るとき、タクシー代はふみたおします。運転手に支払いを催促されたときは気絶するまで殴り倒しました。女性と遊ぶときも金はふみたおします。それでも要求してくれば、やはり容赦なく殴り倒しました。いくら悪行を重ねても、逮捕される心配は全くありませんでした。こうしたふざけた「伝統」は今も死んでいないだろうと思わざるを得ませんでした。

 この本を読むと、戦争は勇ましいものでも、気高いものでもないこと、戦争は実際の戦闘の前に既に始まっていて、戦闘が終わっても終わらないこと、また、戦場だけが戦争の場ではないことがよくわかります。人間にとって、本当に護らなければならないものは何なのかを教えてくれる、大変貴重な本です。