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◆ JR東海の“最高権力者”葛西名誉会長が後進に道を譲らない理由

JR東海の“最高権力者”葛西名誉会長が後進に道を譲らない理由

【ダイヤモンドオンライン】 03/23

葛西敬之JR東海代表取締役名誉会長

週刊ダイヤモンド編集部

 週刊ダイヤモンド3月25号の第1特集は「国鉄vsJR〜民営化30年の功罪〜」。

今からちょうど30年前の1987年3月31 日、日本国有鉄道国鉄)は崩壊した。

国鉄改革を主導した若手メンバーの一人、葛西敬之JR東海名誉会長に、国鉄末期の状況や、30年を経て鉄道事業者が果たすべき役割、自身の出処進退について聞いた。

(聞き手/「週刊ダイヤモンド」副編集長 浅島亮子)

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葛西敬之JR東海代表取締役名誉会長 Photo by Masato Kato

── 葛西さんは“国鉄改革三銃士”の一人。

 40代半ばの若さで、国鉄経営陣に反旗を翻して改革の必要性を訴えたのはなぜですか。

 一言で言えば、政治がだらしなかったからです。

国鉄の最後の経営改善計画(1981〜85年度)を見た途端に、絶対に失敗すると確信した。

国会が経営の重要事項を決めている限り、転落の一途をたどると思いました。

 国鉄末期は、経営対労組という対立軸が崩れた時期でもあります。

それまでは、経営側は自由主義陣営、労組側は社会主義陣営と、対立軸がはっきりしていました。

 それまでは、日本経済団体連合会経団連)は社会党が政権を取ることを阻止するための組織。

日本経営者団体連盟(日経連)は社会主義を支持している日本労働組合総評議会(総評)を阻止するための組織でした。

 ところが、国鉄の経営が行き詰まり、労組も本音では社会主義の限界を感じるようになると、経営と労組がなれ合うようになった。

経営が自民党を動かし、労組が社会党を動かし、両者共に「国鉄を現状維持で守っていこう」という気持ちが強くなっていった。

自社は、表向きは対立しているのに、テーブルの下では手を握っている構図です。

 国鉄は潰れそうなくらい追い詰められているのに、運賃や賃金、設備投資といった必要な重要施策を取るには国会の承認が必要です。

でも、経営と労組にたきつけられた政治は事を荒立てないように妥協する。

国会で議論が紛糾するとあらゆる問題が解決しなくなるので、なるべく事を荒立てないように政治的妥協が続きます。

 不十分、不徹底な政策しか打たれずに問題が先送りされた結果、巨額の赤字を垂れ流し続けました。

その赤字を埋めるのが財政投融資による借金でした。

それがどうにもこうにもならなくなったのが国鉄末期です。

● 赤字でも賃金が上がるなら働かない方がいいという論理

── 葛西さんは、国鉄時代に財務業務と労務業務の両方を管掌する立場にありましたね。

 そうです。

雪だるまのように膨らんだ負債と、増え続けた人員の両方を減らさなければ、国鉄を立て直すことは難しいと思いました。

 私が入社したのは、1963年なのですが、この年が、国鉄が黒字だった最後の年。

私が国鉄にいた24年間のうち、23年間はずっと赤字でした。

 非常に大雑把に言えば、国鉄末期の収入が3兆円、税金が7000億円、それ以外に土地を売ったりして、合わせて3.7〜3.8兆円くらいの収入がありました。

その収入に対して、人件費が約85%もありました。

 つまり、国鉄は100円の収入を稼ぐのに85円の人件費を使っていた。

私鉄は100円稼ぐのに30円程度の人件費が占めていましたから、国鉄労働生産性は私鉄のそれの半分以下だったということです。

働いていない組合員の数が多すぎるのです。

国鉄の運転手は、ハンドルを握っている時間が2〜3時間じゃないかと言われたものです。

 だから、我々若手幹部は、「一生懸命働かないと、飛行機や自動車に客を奪われてしまう。 経営が悪化すると給料をもらえなくなるかもしれない。 剣は磨かなければならない」と組合に言う。

 でも、組合の論理はこうです。

「黒字が出ると運賃の値上げが認めてもらえないじゃないか。 働けば働くほど運賃の値上げが先送りになる。 ならば一生懸命働く必要があるのか」と。

確かに、物価も人件費も上がっているのに、国会がだらしない妥協をして運賃は値上げできませんからその通りなのです。

── 非常に歪んだ論理ですね。

 でも、彼らの論理も事実に立脚しているんですよね。

国鉄公共企業体

公共サービスを提供しているからストライキはやってはいけない。

まあ散々やっていたんだけれども、やってはいけない法律になっていた。

 労働組合はある。

団体交渉もできる。

しかし、争議権はない。

 その代わりに、公共企業体労働委員会の仲裁裁定というのがあって、「民間企業並みの賃金を保証する」という取り決めがありました。

政府もその裁定に従います。

 どんなに赤字でも民間企業並みに賃金は上がる。

働かなくても賃金は上がる。

必要なお金は政府が補正予算で手当てしてくれる。

それならば働かない方がいい。

そして、組合員の数は増え続けます。

 この現象を政治的にみると、社会党の票が多くなる。

組合費もたくさん入る。

組合は非効率ほど財産です。

数は力です。

国鉄「分割・民営化」の発想はどうして生まれたのか

── 今でこそ労働生産性の向上は重要な経営課題ですが、国鉄は復員兵を受け入れた歴史的経緯もあり、リストラをやりにくかったのでは。

 それがうまい具合に、1980年から85年にかけて、(戦後すぐに雇用された)南満州鉄道や朝鮮鉄道からの復員兵の大量退職期にあたりました。

毎年2.5万人〜3万人位、採用しなければ、誰の首を切らなくても自然に減っていきました。

40万人以上いた人員をJR発足時に27万人まで減らせました。

あのタイミング以外には改革はできなかったと思います。

── そもそも、国鉄を「分割・民営化」する発想はどうして生まれたのですか。

 「分割化」は、地域ごとの需要・物価に合うように、地域ごとの運賃・賃金を決めるべきという考え方です。

全国一律の運賃・賃金では限界がありました。

「民営化」は、政治介入を排除して、自律的な意思決定をできるようにする意図がありました。

── 分割民営化から30年。

JR7社の中で、経営体力の格差が広がりました。

本州3社は想定以上に稼ぐ会社になりましたよね。

 制度設計したときに比べると、全てが良い方へ進みました。

でも、3社の役割分担、使命は全く違います。

 JR東日本は、強力な首都圏の鉄道網と関連事業で稼ぐことで、東北のローカル線を維持する会社です。

これは、鉄道会社の典型的なビジネスモデル。

JR東海は、国鉄時代の借金を多く引き継いで、東海道新幹線の収益で借金を返す会社です。

 ちょうどその中間にある(不採算路線の維持と借金返済の使命を併せ持つ)のがJR西日本。三者三様に、経営の基本設計が異なります。

JR東海は私鉄とは違う「国家の鉄道」を背負い続ける

── 一方で、JR北海道やJR四国は厳しい状況にあります。

30年前の枠組みでは、もうやっていけないのではないでしょうか。

 あらゆる制度設計なんて30年も持ちやしないんです。

でも、当時の設計で、本州三社に加えて、「三島会社」のJR九州も上場を果たしました。

 確かに、JR四国は、民営化後に本州から大橋が3本も架かってしまい、経営努力では手が届かないことが起きてしまったのは気の毒だと思います。

ただ、経営の厳しい会社に対しても、やるべきことはやったのかどうかの点検が必要です。

── JRは社会インフラ企業なのでユニバーサルサービスを提供する責務を負っています。

こうした国益を大事にする一方で、民間企業として利益も追求しなければならない。

国益と企業利益の両方について、常に考えなければならないですよね。

 それを一番強く思っているのが、JR東海ですね。

 JR東海は私鉄とは違う。

鉄道を敷いて、あとは鉄道以外の沿線の不動産でもうければいいというわけにはいかないんです。

「国家の鉄道」を背負いながら、経営手法は民間企業のように自律的な意思決定で経営する。

そんなユニークな会社なのです。

 今や、東海道新幹線が生み出すキャッシュフローは年間5000億円を超えています。

日本の大動脈で稼いだお金を何に使うかと言われれば、やはり、新幹線の顧客に還元するべき。

だから、東海道新幹線の将来の旅客のためにリニア中央新幹線を建設するのです。

── リニア建設に財政投融資を使うのは、国鉄時代の教訓(財投による金利支払いで借金が膨らんだ)が生きていないのでは。

 それは違います。

財政支出ではありませんから。

リニア事業に政治介入がないところも決定的に違います。

 むしろ政府が要望してきた話です。

我々には、東海道新幹線というお財布があって必ず返済できるので、政府にとって、こんなに有利な融資先なんてないですから。

でも、口出しはしないでと強く言っています。

── 日本の人口は減っていきますが、それでも、東京−大阪のバイパス(新幹線、リニア)は必要なのでしょうか。

 要るんじゃない?

人口は本当に減るのかい?

移民が増えることでヨーロッパだって米国だって増えている。

日本人が増えなくても、日本にやって来る人は増えます。

● 僕にしかできない仕事があるし、ある間はやるしかない

── 葛西さんは27年にわたって代表権を持つ実質的な経営者です。

後進に道を譲ることはないのですか。

 僕にしかできない仕事があるし、ある間はやるしかない。

鉄道経営や関連事業は、経営者がどんどん変わってもできる仕事です。

でも、リニア中央新幹線の話や海外の話は、人が代わると話が止まっちゃうからね。

── JR東海にも、そうした大局観を持った経営層はいるのでは。

 民営化を知っている世代と知らない世代。

つまり、霞が関型に育った人間と民間企業で育った人間は違うんですよ。

僕はこれまで、国鉄時代に日本帝国の官僚として身に付けた素養を経営に応用してきた。

国会対応や他の官庁のことを俯瞰的に見る「横軸型」の人間です。

今のJR東海で育ってきたのは、一つの事業を深掘りする「縦軸型」の人間。

将来的に鉄道がどうなるのか。JR東海が日本経済、世界経済の座標軸のどの位置に身を置くべきなのか。

外から俯瞰する能力が必要な時です。

 私は、横軸型の人間は外から移入するしかないと思う。

例えば経済産業省財務省警察庁などの人間を採用することで、横軸と縦軸の最適解を作っていけるかもしれません。

      ◇◇◇

葛西敬之 かさい・よしゆき

1940年生まれ。

76歳。

63年東京大学法学部を卒業し、日本国有鉄道へ入社。

国鉄末期に、若手改革派メンバーとして、国鉄の分割民営化構想を実現する上で主導的な役割を果たした。

87年4月、JR最初のポストはJR東海取締役総合企画本部長。

90年副社長、95年社長、2004年会長、14年より現職。

週刊ダイヤモンド』特別レポート

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