時代を越えて(135) 姜尚中・小森陽一「戦後日本は戦争をしてきた」

姜尚中小森陽一「戦後日本は戦争をしてきた」角川テーマ21新書2007

 姜尚中  1950年生 東大教授 政治学 在日韓国人二世で国籍は韓国

 小森陽一 1953年生 東大教授 日本近代文学 九条の会事務局長

 随分刺激的な題名だが、このような主張は左翼に時々見ることから、この際ブックオフで百円、しかも5月連休中2割引きということで買ったのである。

 姜尚中を最初に知ったのは、NHK日曜美術館だったので、芸術関係の人かと思っていたが、在日の強制連行説の立場で、それはなかったとする鄭 大均教授(韓国系日本人)と対照的な人だと後で知った。

 小森陽一については、いくつかの文芸評論を読んでこの日記にも書いているかもしれないが忘れた。

 この対談の時期は第一次安部内閣が総辞職したあたりである。

 第一章 テロと戦争の二十一世紀・・・暴力が弱者に向かう時代

 1.テロの起源

 ?ドストエフスキー「悪霊」のテロリストは皇帝に爆弾を投げる時、一緒に乗っているまだ子どもの皇子たちを巻き添えにしてしまうことに悩んでいる。

 テロの特徴は、支配者とテロリストの非対称性にある。

 ?ロベスピエールの恐怖政治(テロリズム)は、反対派をギロチンにかけて恐怖で反対できないようにさせることにあった。 

 フランス革命の実態は暴動によるアンシャン・レジームの打倒だった。

 ☆海風:

 本来のテロや暴動は巨大な権力に立ち向かうやむをえない犠牲だったが、それによって権力を握ったロベスピエールスターリンの恐怖政治は弱者である民衆に向けられた、といいたいのだと思う。あるいは必要悪と見ているのか。

 2.現在のテロと戦争との共通点 

 ?アメリカはテロを悪と決め付けた

 戦略爆撃が始まったことにより、今の戦争は戦場のない、戦闘員と非戦闘員の区別のない戦争になった。(無差別テロはそれと同じである)

 正しい戦争(just war)は第二次大戦から始まった(カール・シュミット)。今、アメリカはテロに対してまたしても正義の戦いと言っている。

 (無差別テロの)9.11事件はニューヨーク、ワシントンへの自爆攻撃。

 ?グローバル資本への暴動

フランス暴動(2005年秋のアフリカ系移民による)では、イギリスの空港でイギリスの移民二世が爆弾を仕掛けた自国産(ホーム・グロウン)テロがあった。

 グローバル資本は国籍を離脱して安い労働力を買い叩いて世界中で売る。自分たちの財産は世界中にあり、いつかは暴動(つまり革命)が起きるので守ってもらわなければならない。この多国籍企業を守るのが自衛隊の海外派兵である。

 ☆海風:今の自爆テロは権力者をターゲットにしているものばかりではなく、最初から一般民衆を狙ったものが多い。民衆の犠牲を恐れた権力者がテロリストと妥協すると考えているのであろう。だからこそ、大統領や首相などはテロに屈服しないという声明をだす。

 著者たちは、最初から非戦闘員をターゲットにすることは第二次大戦から普通に実行されているという。それなのに、テロに対しては正義の戦争だと称してアフガニスタンやシリアで無差別攻撃をしている。つまり、テロはやはり弱者の武器だと考えているようである。

 ところで、自国産テロという言い方で、移民の出身国でなく、移民先の国の責任だとする考え方がある。欧米で生まれたのに人種差別で将来の夢を失って、自暴自棄になったというのであろう。しかし、イスラムの宗教は本来原理主義に向かいやすいので、異教の神との戦いに目覚めやすいといえる。

 ここで著者たちが自衛隊について批判していることは欧米の全軍隊に言えるし、砲艦外交をやりだした中国にも当てはまる。彼らの判断している立ち位置はどこにあるのだろうか。

  

 第二章 平和国家の幻影・・・戦後日本の戦争史

 1.ニューディーラーと戦後憲法

 戦後憲法が施行されたのは1947年5月3日(つまり憲法記念日)で、それ以前の1946年11月3日の戦後憲法公布のときでも天皇に主権のある明治憲法のもとにあった。

 憲法学者の古関彰一によれば、裕仁の言葉として発せられたなかで、一条から八条までの天皇条項を支える形で九条がある。それを当時唯一の主権者が言うということは、戦争責任を取り今後戦争しないという国際公約の表明である、とみている。

 マッカーサーの部下のニューディーラー(つまりルーズベルト大統領の協力者)たちは、東京や広島の爆撃の後を見てむごいことをしたと反省して戦後憲法を作った。1919年の朝鮮独立運動三・一運動)の弾圧をむごいことだと反省する日本人はいなかった。

 ☆海風:

 昭和天皇が呟いていたなどと、小説でもないのに妙な設定するものだと思うが、天皇が呟いたことで国際的な公約になったとするのもどんなものか??

 GHQのニューディーラーのエピソードは初めて知ったが、確かに戦後の革新勢力の頼りだったから、事実かどうかはともかく、革新派は好意的に見ていた。朝鮮戦争の勃発で彼らは更迭されが。

 2.南北分断の責任者と朝鮮戦争の利得者

 1.朝鮮戦争がなぜ起きたか。なぜ朝鮮半島が南北で分断されたか。

 ?三八度線は朝鮮軍と満洲関東軍との仕切り線だった。

もし日本が半年早く、または半年遅く降伏していたら分断はなかった。

 終戦時に朝鮮半島には「朝鮮人民共和国」ができつつあった。李承晩と金日成をいれた人民戦線内閣です。当時の朝鮮総督府は日本人をすみやかに帰国させるために人民戦線と交渉していたが、アメリカ軍の仁川上陸をみて交渉を打ち切った。以後、アメリカは旧朝鮮総督府の官僚機構を使って占領体制を構築した。

 朝鮮戦争では、日本は直接の当事国ではなかったがB29が米軍基地から飛び立った。北朝鮮から見れば日本は敵だった。

 ?日本は朝鮮戦争で息を吹き返した。どれだけの効果だったのか資料がないので研究で実証されていないが。

パチンコ産業も日本で儲けているのだから日本に還元すべきだ。私なら日中韓の関係改善のためのファンドを作る。

 ☆海風:

 朝鮮半島の分断は米ソの対立と分捕り合戦の結果であろう。直接的にはルーズベルト大統領がソ連の参戦を促したことにある。

 北朝鮮が日本を敵と見たのは当然のことだった。だから、北朝鮮が日本を「平和国家」と見ないのも当然だった。私も気がつかなかった。

著者ははっきりいっていないのだが、朝鮮戦争で儲けた日本はその利益を朝鮮半島に還元すべきだと言いたいのだろう。

 3.北朝鮮との融和と日本の責任

 朝鮮戦争は中国革命と地続きだった。切り離してみるものではない。

 1965年の日韓条約があって韓国は変わった。その時には日韓の連帯もあった。私は、当時は反対したけれども、今ではよかったと思っています。あの独裁(李承晩の)国の韓国は民主化を達成した。北朝鮮にも同じことが起きないとどうして言えるのか。時間をかけて協力すればできるはず。アメリカはそれを認識し始めたが日本だけが分かっていない。

 朝鮮戦争を「終戦」させるための韓国の努力(太陽政策)を、今こそ日本は学ぶべきである。

 日本は1980年の光州事件に、旧宗主国として、また日韓条約を結んだ当事国としてやるべきことがあった。今、日本が北朝鮮の人権弾圧と言っても白々しい気持ちになるだけだ。

 ☆海風:

 毛沢東の中国革命(国共内戦)は肯定的に評価されている。それと連動した北朝鮮による朝鮮統一戦争(南北内戦)も肯定されるべきと言いたいのだろう。

 しかし、北朝鮮のその後の経済の実態を見れば、まして自由のない独裁政治を見れば、この北の進軍を肯定的に見ることはできない。

 今、日本でもまして韓国では、政治家が日本の統治政策を成功したということはできない。しかし、研究者の立場でみれば経済的に、そして近代化の進展からみても成功と見る人は存在するのである。北朝鮮にはその実績がない。

 韓国の韓江の奇跡は朴大統領のプラグマティズムがあってのことでないだろうか。北朝鮮は確かに軍事技術の開発には成功しているようだが、昔ながらの計画経済でどうかなるものなのか。

 著者は旧宗主国としての日本の関与を求めるが、調停のようなことを韓国側が受け入れるはずはないのである。

 第三章 虚から実の時代へ・・・本当の平和国家へ向けて

 1.平和国家を自称する戦後日本の罪

 日本の戦後社会は朝鮮戦争ベトナム戦争と関わって血ぬられた経済発展をした。北朝鮮の分断や先軍体制の国家であり続けたこの五十年以上にわたる問題はすべて日本が関与した侵略戦争と植民地支配体制の歴史の続きであった。

 もし、日朝国交回復を進めていくのであれば、改めて戦争責任と戦後責任トータルに問われることになる。第一期の安部政権は侵略戦争と植民地支配をめぐる歴史認識を無かったことにしようとして北朝鮮の国家体制を崩壊させようとしている。

 旧植民地帝国はすべての負の遺産をかっての植民地に追わせた。それを民族自決と言って不可能を押し付けたのである。同様に、日本も沖縄(かっての琉球王国)を切り離して矛盾を本土(大和)に浸透しないやり方で日米安保条約を結んだ。

 湾岸戦争の直後、自民党の幹事長だった小沢一郎憲法前文を拡大解釈して自衛隊の海外派遣を可能にした。普通の国になるべきと言っていました。

 

 ☆海風:ここに著者たちの立ち位置が正直に表明されている。一般的にはリベラルと評価されているであろう二人だが、日本の戦前戦後の全面否定である。しかし、経済的政治的にみて、昭和戦前期を除いて、ここまで否定する学者は見たことがない。極左の政治姿勢だと判定せざるを得ない。

 ただ、リベラルとされる欧米のマスメディアの中には、彼らを評価するところがあるのかもしれない。リベラルが左翼化しているのであろう。

 

 小沢氏は政治姿勢の転換した? それとも最初からオポチュニストだったのか?

 2.旧植民地の主張

 ?慰安婦の主張

この時、歴史認識の問題で重要なのは、湾岸戦争の起きた1991に、韓国の元従軍慰安婦が日本の国家を相手に裁判を起こしたことです。韓国における民主化運動が新しい段階に達し、従軍慰安婦たちは精神的外傷を引きはがすように記憶を想起して性奴隷制度を糾弾し始めた。

 93年に宮沢政権は河野洋平官房長官によるきちんとした調査をして、日本軍が関与したことを認めて謝罪した。2007年の安部政権はこの河野洋平談話を無きものにしようとしている。

 ☆海風:第二次安部政権の検証によれば、河野談話は韓国の提供した資料に基づき、これで要求を終わるとの約束で出されたものだった。

 ?金大中政権の取り組み

 金大中大統領(1997−2002)の太陽政策は最大の危機回避策である。

金大中政権はゴアを応援し、アメリカ国内の在米韓国人グループは民主党政権に肩入れした。それで、ブッシュ政権では金大中は冷遇された。

 小森:日本国憲法は「国民」にしか人権を認めていない。姜さんはノンポリでいいでしょう。

 姜:10年前から(1997年、つまり金大中政権発足時)政治に関与するようになった。日本国民すべてが憲法を否定しても、私は「守る」し、生かさねばならない。

 ☆海風:アメリカの政治決定への金大中政権や韓国人の干渉が肯定的に語られている。これを受けて姜氏は日本政治に積極的にかかわるようになったのだろう。もってまわった言い方だが、小森氏の方は外国人ということで、それを危惧している。

 3.日本の紆余曲折とあるべき方向

 ?94年には読売新聞が社を挙げて改憲キャンペーンを始めた。

田中派の衣鉢を継ぐ大平や経世会、小渕政権などの中に脈々コネクションがある。今の政権はその反対で、台湾ロビイストで反中国派です。

 小泉政権は五十五年体制を延命させ、対米従属を深めた。

日本と言う国を完全に無力化しアメリカの属国にするのが自民党の定めです。

 ?北朝鮮と言う先軍政治の国家が、そこに固執するのでなく、変わって行く方向にうながす。これが、隣接する地域の私たちの大切な役割です。

 ☆海風:

 残念ながら、今の日本は中国、南北朝鮮と互角に渡り合えない。第二次安部政権による慰安婦問題の最終的合意もアメリカの容認のもとで可能になったのである。アメリカの容認がなければ、これまでのように最終的合意は簡単にひっくり返されるに違いなかった。

 つまり、まだ日本の実力が伴っていないので、日米同盟の範囲内でしか動けないし、動くべきでもない。これが、戦前の日英同盟中止の失敗に学んだ吉田茂の哲学だろうし、日米安保を改定した岸氏の孫の安倍首相も踏襲しているに違いないのである。

 この対話の時点では、まだ北朝鮮に幻想があったのだろう。この二人は、今でもそう考えているかもしれないが、北朝鮮を転換させられるのは経済・資源を封鎖して、人道の範囲内に貿易を制限する以外にない。

 (スターリニズム体制のソ連共産主義ではなく、国家社会主義プロパガンダ国家だった。)というのは対談で小森氏の言っていることだが、北朝鮮もまったく同様である。スターリン体制は彼の死と同時に実行されたフルシチョフらによる宮廷クーデターで後継者の秘密警察長官ベリアを処刑し、ある程度対話可能な体制に改革され、それがゴルバチョフペレストロイカにつながった。北朝鮮の場合は、今のところクーデターは無理なようで、可能性のあるものは派手に粛清されている。

 ☆海風:まとめ

 この二人は現在のリベラル知識人を代表する日本人と在日韓国人学者なのだろう。朝日や毎日新聞、それにテレビ局などとも同質の政治姿勢が感じられる。

 ということで二人の見解は重要だと思う。

 

 1.独裁的政治体制への態度

スターリン体制を「国家社会主義プロパガンダ国家」と呼んでいる。つまりは、ナチス・ドイツと同じだとの認識である。かっての過激派は「反帝・反スタ」と唱えながらデモをしていた。アメリカ帝国主義ソ連は同質の敵だというのである。

 北朝鮮の体制は資本主義のウィルスを入れれば崩壊するというのだが、確かに、豊かになったソ連の計画経済はそれで崩壊した。北朝鮮の体制は国民を豊かにさせるだろうか。もともと、両班支配体制で今はそこに共産党が位置している。なんだか、ますます元気なイスラム原理主義国に近い主体原理主義国に純化しそうな気がする。

 2.グローバリズムへの態度

 そもそも、社会主義共産主義グローバリズムだった。万国の労働者は団結して世界革命をめざすことになっていた。今、多国籍資本は資本に加えて労働の自由な移動を求めている。しかし、労働者の中には、あくまでも自国に、しかも住み慣れた地域と仕事に固執して「万国の労働者」だとは思っていない人も多いらしい。

 二人の著者は、グローバリズムを批判して、同時にナショナリズムも批判する。二つの批判は両立できるのだろうか。

 3.万死に価する日本の戦前戦後

 ここまで、いわば肉体的に嫌っていて、その国民の支持を受けられると思っているのだろうか。いや、多分、そんなことはどうでもよいのだろう。革命家とは変えることだから。ポルポトのように、そして文化大革命のように、国民の入れ替えも辞さないのが本来の共産主義者である。「社会主義的人間」に成れないものはシベリアで奴隷労働をさせればいいのである。

 4.二人の依拠する集団は何なのか

 一つは、欧米のネオ・リベラルなのだろう。ただ、この集団もエマニュエル・トッドの見立てでは盤石ではない。フランスの大統領選ではマクロン候補が65%で、ルペン35%を破ったが、これからの議会選挙や地方選挙ではかなりの議員を獲得していく可能性もある。

 後は、中国や韓国、北朝鮮に同調的なのである。自民党の親中国派である旧田中派系統に期待している。

 5.安倍憎しの根拠

 安倍氏の政治姿勢は「日本を取り戻す」だから、ネオ・リベからみればとんでもない反動なのだろう。

 朝日系意識の人だけでなく、当然、在日系とも、共に天を戴かずとなる。是々非々の関係を作れず、安倍氏を倒すまで安心できないのであろう。これが、凡人には異常にも見える安倍ヘイトの原因であって、安倍氏の活躍で拉致された人の一部を取り返したこともまったく評価できないらしい。北朝鮮との信頼関係を裏切ったと見る人もいる。そもそも、信頼関係のあった時があったのかと思えるのだが。